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「12月中はクリスマス」 土曜に更新ショートショート

 

 

12月中はクリスマス

 今朝の空腹は限界を迎えていた。昨日の朝はブラックコーヒー、昼はサンドイッチ、家に帰った夜はおかずもないので、バターライスを一合炊いてそのバターライスを食べるのみだったから。ちなみにバターライスとは、ご飯を炊くときにバターとコンソメを入れて炊いたものだ。

 

 そんな今朝は休みなのだが、昨日に引き続きおかずがない。親友に買い物を頼もうか考えるも、早くても午後の6時以降に届くのが最速なのだから、その頃にはもう私は空腹のために天に召されていてもおかしくはない。親友を空腹で天に召された私の第一発見者にするのはよくないだろう。今の時点で私は天国への階段を二段のぼっているが、もう天国とは大変よさそうな感じがするのだった。しかし、この空腹の苦しみから救ってくれるはずの天国からはまだ歓迎されてはいないようだ。まだそのときではない、と聞こえたような気がする。

 

(ピンポーン)

 

え?誰だろ?そんな急な予定外のチャイムに、私はチェーンをかけたままドアを開けた。

 

「ピザお届けに来ました!」

 

見るとサンタクロースの格好をした、宅配ピザで有名なカクヨムピザのいつもの配達のおにいさんが立っていた。しかしいつみてもどうみてもジュノンボーイだ。私にはそうにしか見えない。

 

「いま開けます!」

 

空腹はどこかに飛んでいった。私は無意識に高速でチェーンを外し、ドアを開け、イノセントな瞳でいつものジュノンボーイを見上げた。

 

「お代はいただいてますので、こちらのピザをどうぞ!」

「え?」

 

「クリスマスなんで!」

「でも今日はまだクリスマスじゃ…。」

 

「12月中はクリスマスなんで!」

「ええ?」

 

なかなか受け取らない私の様子に、いつもの配達のおにいさんはいつもの笑顔ではなく、初めて見る真剣な眼差しで私を見つめた。

 

「サンタクロースからのクリスマスプレゼントです。っていうか、僕からのクリスマスプレゼントなんで、受け取ってください。」

「は、はい。ありがとう、サンタさん。ところでお名前は?」

 

「角 三太郎です。」

「かく さんたろう?」

 

「サンタの三太郎です。」

「ほんとに?なんだか冗談みたいな…、フフッ。」

 

「冗談じゃなくて、ほんとに三太郎ですよ。」

「そう、ありがとう、三太郎さん。」

 

「冷めないうちに食べてください。」

「はい。」

 

「じゃ、失礼します!」

「はい!」



 私はドアを閉め、鍵をかけてチェーンをすると、とりあえずピザをテーブルにおいた。結局ピザは食べなかった。やはり、いつもの配達のおにいさんだけど、なぜ今日ピザをプレゼントしてくれたのかこわくて食べられなかった。



そしてその日は親友がどうしたのか家に突然遊びに来た。

 

(ピポピポピンポーン)

 

ドアを開けると親友はミニスカサンタの格好をしていた。

 

「メリークリスマス!プレゼントはもう食べた?」

「え?なにそれ?」

 

「ピザ!届いたでしょ?」

「え、あ!届いたよ、でも食べてないよ。」

 

「なぜに?いや、いいから家入れて!寒いから!」

 

親友は勝手に家に入ると、テーブルにあったピザの箱を開けはじめた。

 

「うわー、ほんとに食べてない。ひどーい。」

「いやいや、ピザってあんたがくれたの?」

 

「うん、まあ、カクヨムピザのひとに私の名前言わないで届けてくださいってお願いしたんだけどね。」

「そうなの?そしたらあれは芝居だったのかー。」

 

「なにそれ?」

「いつものカクヨムピザの配達のおにいさんが、サンタクロースの格好をして…。」

 

私は親友にサンタの三太郎さんとの出来事を一部始終話した。

 

「ええ!ちょっとこわすぎ!そんなことまで頼んでないよ。ピザは、会社から頼んだ感じの風にごまかしてとか言ったけど。」

「なんだったの?普通に芝居かな?受け取らなかったから。」

 

「いや、それじゃない?でもサンタクロースの格好してたってノリ過ぎだわー、カクヨムピザ!」

「こわいねー。」



 結局、やはりそのピザは食べなかった。ノリ過ぎたカクヨムピザの芝居と言う結論に達した私と親友は、これからはカクヨムピザからピザを頼まないことにした。

 

しかし、そのあと会社で誰かがカクヨムピザからピザを注文したようで、あのいつもジュノンボーイ、いや、サンタの三太郎さんがピザを会社に届けに来たのだった。私はとっさに、三太郎さんから見えないようにデスクの下に隠れた。

 

「おにいさん、もうサンタさんの格好で配達ですか?」

「はい、12月中はサンタの格好するんです。」

 

「そうなんだー、配達頑張ってください!」

「はい!」

 

三太郎さんが帰ると、隣にいた親友が私を見た。私はなんだか複雑な気持ちがした。すると親友が私の手を引っ張って、私は外まで連れていかれた。外には車に乗る途中のサンタの三太郎さんがいた。親友に強くど突かれた私は、三太郎さんの体に勢いよく突っ込んだ。

 

「うおおー!なんだ!」

「す、すいません!」

 

「え!あ、大丈夫ですか?」

「はい…。」

 

サンタの三太郎さんは私に気づくと、私の体をひょいっと起こしてくれた。

 

「あの、じゃ、次の配達があるので…。」

「いや、何ていうか、そのー、クリスマスプレゼントのお返しをしてないなー、ていうかなんていうか…。」

 

サンタの三太郎さんから笑顔がこぼれた。

 

「ピザをまた頼んでください。僕しか配達しませんから。」

「わかりました。」

 

そしてサンタの三太郎さんは車に乗り、次の配達をしに行った。



 後ろを見ると、親友はなぜか感動したようで、泣きながら三太郎さんに手を振っていた。

 

「よかった、よかった。クリスマスの奇跡だねー。あんたみたいなもんが。」

「なにそれ!」

 

「罪人こぞりてだねー。」

「どういうこと?」

 

「気にしない!キリストは罪人を救うためにこの世に誕生されたんだよ。」

「よくわかんない。」

 

「幸せにね。」

「え?う、うん。」



まだ泣いている親友を見てると、わたしもつられて涙が出てきた。そしてふたりで号泣しながら会社に戻った。会社の人たちは窓から一部始終を見ていたのか、拍手と声援で私たちを迎えてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

12月中はクリスマス

でしたー。

 

 

(追記 もろびとこぞりてを、罪人こぞりてと思い込んでましたが、いまのところ訂正せず、そのままにしておくことにしました。気になったかたはすいません。)

 

 

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